私(Aさん)が住んでいる近所にある大田区立中学校から、従来実施している職場体験実習がコロナ禍で行えないので、代わりに同じ地域に暮らす大先輩から社会人としての講話を聴きたいと、依頼を頂きました。
今回の授業の目的は、今後のキャリア学習や進路選択への意識を高めること、更に意見を発表し面接や集団討論に備えることです。
一生の中で最も大きなウエイトを占める仕事、職業の選択を今から考え、準備してもらおうとレジュメ(目次に記載)を用意しました。
昨年100年に一度のコロナ禍により産業、企業、そして私どもの生活は一変させられました。
生徒さんたちが将来の職業を考えるにあたり、日本が解決すべき課題に大きく影響を受けます。
従って、3つの課題、少子高齢化、AI・デジタル化、SDGs(環境問題)を事前に勉強し、グループディスカッションにて話し合って、当日発表してもらいました。
当日は、1年生4クラス153名の生徒さん達に別室よりリモートで授業を行いました。
彼らは真剣に授業を聴き、しっかりノートを取り、内容を理解し、また積極的に参加しました。
学校からは来年もまたお願いしたいと高く評価していただきました。
目次
日本の課題と展望
日本が解決すべき3つの課題、少子高齢化、AI・デジタル化、SDGs(環境問題)を事前に勉強し、グループディスカッションにて話し合って、当日発表してもらいました。
少子高齢化・人生100年時代の到来
1)人口の減少と経済成長率の低下
・日本人平均寿命(2019年):女性 87.45歳、 男性 81.41歳
・健康寿命(2016年):女性 74.79歳、 男性 72.14歳
・人口:1億2427万1318人(2020年1月1日・前年比50万人減)
・出生数:87万人(2019年、過去最少)
2)高齢者と女性労働力の活用
・高齢者(65歳以上):3,589万人(総人口比28.4%)の定年延長
・雇用制度・働き方改革:メンバーシップ型からジョブ型へ
・非正規雇用労働者:2,165万人(割合38.3%)の増加
・副業・アルバイトの容認
3)社会保障改革(介護・医療・年金)
・財政の肥大化:国と地方の長期債務残高は、国内総生産
(GDP)の2倍に当たる1100兆円を超えるまで膨張
AI(人工知能)・デジタル化
・ビジネス、生活、金融、教育、政治のすべてをIT(情報技術)・ネット化する第4次産業革命
・デジタル庁創設(2021年)
・行政システムの仕様統一(マイナンバーカード)
・高品質サービス産業(アニメ・ゲーム・エンターテイメント・観光・グルメ・健康)
・遠隔医療
・遠隔授業・プログラミング・デジタル教材の教育システム改革
・AR(拡張現実)・VR(バーチャルリアリティ・仮想現実)
・物流・流通・宅配・ドローン
環境問題・異常気象
・ 2050年温暖化ガス排出量ゼロ
・2030年までの17のSDGs(持続可能な開発目標)の一つ
・クリーンエネルギー:太陽光、洋上風力、水素
・クルマの改革
CASE=コネクテッド(全てのモノやサービスがつながる)、自動運転、シェアリング、EV(電気自動車)Co2排出量の削減
働くこと、職業の意義
働くことの目的・意義については次の通り:
1.収入を得ること
2.社会のお役に立つ・社会との接点
3.自己の成長を高め、達成感、存在価値を実感する
4.仲間・友人を得る
職業の選び方
職業を選ぶにあって大切なことは次の3つ:
1.興味:長く続けるために自分のやりたいこと、好きなことですか?
2.適性:自分にどのような能力がありますか?
強み・個性・得意分野を伸ばそう。あなたの希少価値は何ですか?
3.社会のニーズ:社会が必要とする職業・需要がなくならない職業に就こう
職業の種類(参考資料)
・村上 龍著「新13歳のハローワーク」幻冬舎
・127万部突破の大ベストセラー「13歳のハローワーク」2003年刊行の改訂増補版
・「国語が好き」、「体育が好き」等好きな教科別に593種類の職業を解説。
・職業分類表 厚生労働省 平成24年改訂
中学生への私の提案
中学生として心がけておきたいことは次の通り:
- 高校入試に備える
- 中学3年間の全てが評価の対象:教科、部活、〇〇委員等の経験。
- 人生100年を生き抜く身体作りに心がける
- 好奇心を持って疑問・知りたいことを自分で調べ考える情報収集力・主体性
- 基礎的人間力。スポーツ、芸術、外国語力(英語・中国語)
- 相手の立場に立って考え、受け入れる共感性
- 自分の考えを的確に述べるコミュニケーション力(会話力)・プレゼンテーション力(発表力)
生徒達の感想
講話の内容と生徒達の感想は、学校が発行する「1学年便り」に3回にわたり「Aさんによる職業講話とディスカッション」のタイトルで詳しく掲載されました。
感想文抜粋:
Aさんの講話はパワーポイントを見せてくれてとてもわかりやすかった。ゆっくりしゃべってくれたため、聞き取りやすくて助かった。・・・・いろいろなことを知ることができた。身体作りは若いうちからと聞いて、健康的な生活をしようと思った。
自分たちの未来について一人一人が考え、意見を共有するいい機会になったと思います。
Aさんの働くことの中にあった自分の存在価値を実感するという言葉が胸に刺さりました。働くことというのは自分の生きていく意味でもあると思いました。
中学校を卒業したら、自分の進路に向かって、自分の力で生きていかなければならない。僕達が何をすべきなのか知ることができたので進路を決めるための良い経験になった。Aさんが言っていた「自分の長所を伸ばす」ということが心に残っている。将来自分の長所を伸ばして、社会に役立てるようにしたい。
自分のやりたいこと、得意分野を伸ばすという話が心に残りました。
Aさんが「自分の好きなことの仕事に就けばよい」と言っていた。・・・今回の話を聞いたら将来への関心が出てきた。
SDGsの中に17個の種類があることを初めて知った。職業の種類ではIT関連の会社が伸びている。83歳でゲームを作った人(若宮正子さん:世界最高齢のプログラマー)がいるから勉強をすれば誰でもできる。あきらめないで頑張れば大丈夫。疑問に思ったこと、知らないことは自分で調べ、考える。
少子高齢化がなくなるように大人になったら結婚して子供を持ちたいなと思いました。
少しでも結婚に対しての興味を持ってもらうにはどうしたらいいかを考えたり、英語などの国際的な知識を身につけたりするなど、自分にできることをしていきたいです。
少子高齢化問題について、子育てしやすい世の中にするためにという内容で、より身近かに感じることが出来、自分たちで改善していきたいと思いました。
私はデジタルの知識や操作方法など知らないことが多いので、知識を今のうちに増やしていきたいです。
今後の課題―オンライン授業
学校側は今回オンライン授業の運営について経験し、学ぶことが出来ました。
今後「GIGAスクール構想」にてタブレット端末などハードの整備、プログラミング教育の本格実施が始まります。
それに伴い、外部人材の活用や教員のスキルアップなどソフト面の整備も欠かせません。
日本で圧倒的に不足しているAIを作れる人材を育てる、デジタル時代に役立つ能力を持つ生徒たちを育てることが大きな課題になると考えます。