菅義偉首相が9月3日辞意を表明しました。昨年9月首相就任以来わずか1年での退陣です。
首相はコロナ封じ込めと経済再生の両立を掲げ、高い内閣支持率を得て順調にスタートしました。日本の将来に向けて、2050年に二酸化炭素の排出を実質ゼロにする目標を決めたり、デジタル庁の創設もあり、それなりによく頑張られたと評価いたします。
しかしながら、喫緊の課題である新型コロナウィルスの感染拡大は止まらず、医療ひっ迫状態は改善されていません。従って、9月12日の期限までに緊急事態宣言の解除を行える状況ではありません。
何故にコロナ対策が進展しなかったのか、その原因はどこにあるのか、検討してみました。
人口千人当たりの病床数は先進国で最も多いのに、日本の医療が逼迫しているのは何故でしょうか? またワクチン接種率も先進国中、最下位のレベルにあるのはどうして?
これらは私どもが抱く疑問です。
コロナが世界を襲ってから1年8か月が経過しましたが、上記の状況が改善されないのは、政策決定を行う国の体制ややり方に問題があるということだと思います。
目次
- 1)有事の体制がないこと
- 2)行うべき戦略の優先順位を決めずに対応
- 3)国民への情報発信力の弱さ
- 4)医療体制整備策の提示がないこと
- 5)行動力不足
- 6)縦割り組織の弊害
- 7)危機に対する備えを怠たったこと
- まとめ
1)有事の体制がないこと
医療に関しては、平時を前提にした体制しかなく、有事になってもスイッチを切り替えて対応することが出来ないことがあげられます。日本の仕組みは、法的な強制力がなく、外出自粛や休業を行政が国民に「お願い」するしかない状況です。
2)行うべき戦略の優先順位を決めずに対応
コロナについては、専門家でもわからないことがある未知の世界です。
新型コロナウィルス感染拡大防止、ワクチン接種、東京五輪開催、デジタル化の遅れーデジタル庁の創設、脱炭素社会への対応等いろいろな課題への取り組みにおいて、明確な優先順位は示されないまま事は進みました。
3)国民への情報発信力の弱さ
コロナ対策の政策決定において、政府は情報公開を積極的に行い、国民との対話を重視して、迅速かつ十分時間をかけて丁寧に対話を進めることで、国民に納得してもらうことが最も重要と考えます。
しかしながら、首相は国民へコロナ対応を訴える対話において、他の主要国の首脳のように強い呼びかけを行えず、その熱意が私どもに伝わりませんでした。
記者会見では「国民の命と暮らしを守る」と繰り返すばかりで十分な説明を欠いていました。
4)医療体制整備策の提示がないこと
医療現場も保健所も多忙を極めていますが、「自宅療養」や入院調整中の方々が数万人もおり、自宅療養中に亡くなられるケースが生じていることは黙止できないゆゆしき事態です。国民の命の尊厳を守ることを第一に考えて対応して頂きたいと思います。
あらゆる手段で国民の命を救う体制整備を進める必要があります。緊急的な医療施設いわゆる「野戦病院」型の整備、訪問診療や訪問看護を組み合わせた自宅療養患者の24時間見守り体制は喫緊の課題です。
尚、総裁選に名乗りを上げた岸田文雄前政調会長が「医療難民ゼロ」を目指すと健康危機管理庁(仮称)の創設を提案しています。
5)行動力不足
重要なのは「とにかく行動する」ことです。スピード感をもって試行的に対策に着手し、問題点を見つけて素早く改良を行い、より良いものへ改善させていく「アジャイル(agile)思考」が必要と考えます。
アジャイル思考とは、変動が激しく先が見えない現代において、目まぐるしい変化に柔軟に対応していくのに適した思考方法で、IT(情報技術)の世界で「アジャイル開発」として注目されています。
アジャイル思考は、新しいアイデアのトライ&エラーを積極的に推奨し、短いサイクルで新しい価値の創造・改善を推進します。 アジャイル思考において重要なのは「とにかく行動する」ことです。
6)縦割り組織の弊害
優先順位が定まらない一因が、縦割り組織の弊害です。ワクチン接種やPCR検査、コロナ病床の確保が滞る事情はさまざまあるでしょうが、元凶のひとつが厚労省と省庁間や中央と自治体の連携が乏しいことで、迅速な対応ができないことです。
ワクチンでいえば、接種の管轄は厚生労働省、自治体との調整は総務省、輸送は国土交通省。日本は緊急時の調整力が弱いと思います。医療や防疫の専門家は多くいますが、全体状況を冷徹に判断し、政策を調整できるリーダーが必須と言えます。
7)危機に対する備えを怠たったこと
2009年の新型インフルエンザを受け、国の総括会議は翌年、感染大流行にそなえた保健所やPCR検査、ワクチン開発の強化などの提言をまとめました。しかしながら、提言はたなざらしになり実行されませんでした。
パンデミックの警告があったにも拘らず、医療や保健所の体制改革を行わず、準備を怠りました。
日本のアフガニスタン人道支援において、関係者をカブールから退避させられない状況は、危機への対応体制が整っていないことを示す端的な例として指摘されます。
頻発する地震や台風への対応では日本は世界最高レベルの体制にあると思います。
しかし、現に米国と中国との覇権争い・対立から起こりうる戦争リスク・脅威があるのに対して、必要な危機管理の体制がほとんど進んでいないのが現状であり、大いに心配されます。
まとめ
首相官邸が9月3日に公表したワクチン接種の実績では、国民全体で2回接種を終わった比率は47.1%、高齢者は87.1%となっています。
インド型(デルタ型)の拡大で若年層でも重症化する事例も出てきており、接種を加速することが急務です。
デジタル庁は、コロナ禍で明らかになった行政手続きの縦割りの是正やばらばらな自治体システムを統一していく司令塔として、今後の活動に期待していくことになります。
また2050年脱炭素に関しては、計画は作ったものの、原子力発電を含む再生可能エネルギーの具体策の取り組みはこれから着手していく段階であり、二酸化炭酸ガス排出ゼロが実現できるかどうかは未知数です。
私ども日本はこれらの現実を直視して、課題を整理し、優先順位を定め、対策案を一つずつ実行するという基本に返り、明るい未来への立て直しを急いでまいりましょう。