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岸田内閣の経済政策に疑問

岸田文雄首相は第2次内閣を発足させて、「新しい資本主義実現会議」など新設した会議で政策の具体化を始めます。

多くの会議が設置されますが、各会議の役割分担ははっきりしません。目標とする「成長と分配の好循環」への道筋はつけられるのかどうか検討しました。

 

目次

岸田政権の主な会議

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岸田内閣の主な会議と役割 出典元:日本経済新聞電子版

司令塔組織として立ち上げたのが新しい資本主義実現会議だ。

設置に合わせて菅義偉政権がつくった「成長戦略会議」を廃止し、その機能を取り込んだ。

個別の成長戦略だけでなく、成長がもたらす果実の効果的な分配策もセットで話し合うと説明する。首相は10日の記者会見で「成長のための投資と改革を大胆に進め、成長の果実を国民に実感してほしい」と語った。

政府は9日、新しい資本主義実現会議の方針を踏まえて具体的な政策立案をする4つの組織の設置を発表した。

1つはデジタル臨時行政調査会(臨調)で、デジタル化と規制改革、行政改革を一体で検討する場として設けた。既存の規制改革推進会議と行政改革推進会議、菅政権で置いたデジタル社会推進会議の3つを統括する立場となる。

2つ目はデジタル田園都市国家構想実現会議で、デジタルを使った地方活性化を進める。安倍晋三政権がつくった「まち・ひと・しごと創生会議」に近い役割を負う。

3つ目は全世代型社会保障構築会議で、少子化時代の社会保障について改革案をとりまとめる。安倍・菅両政権で後期高齢者の医療費窓口負担の増加を提起した全世代型社会保障検討会議の機能を継承する。

最後は公的価格評価検討委員会で、首相が自民党総裁選で打ち出した看護師や介護士、保育士らの給与引き上げ策を全世代型社保構築会議のもとで練る。民間の賃上げへの呼び水とする。

各会議の線引きは明確になっておらず、枠組み先行という面は否めない。新しい資本主義実現会議は経済政策の司令塔という性格を帯びるものの、予算編成の基本方針や経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の策定は引き続き経済財政諮問会議が担う。

新しい資本主義実現会議が8日にまとめた緊急提言は賃上げに取り組んだ企業への優遇税制拡充やデジタル化の促進などを盛り込んだ。

デジタル関連の会議は新設した2つのほかにデジタル社会推進会議もあり、担当の重複が出てくる。複数の会議があれば多様な有識者の意見を反映しやすくなるものの、政権がめざす方向性が見えにくくなったり調整に時間がかかったりする。

政府会議の新設や再編で政権のカラーを提示するのは常とう手段ではある。

岸田内閣にとっては来夏の参院選に向けて政策面の実績をどこまで積み上げられるかが会議の使い方にかかってくる。

引用元:日本経済新聞電子版

 

コロナ危機で得た教訓

小峰隆夫大正大学教授は、次のように述べられています。

前例のない感染症との戦いの中で、経済政策は試行錯誤とならざるを得なかったのだが、その錯誤を繰り返さないようにすべきだ。錯誤の代表例を2つ挙げよう。

一つは2020年春の国民全員への一律10万円給付だ。このとき家計所得に何が起きたのか。内閣府「国民経済計算」によれば、20年4~6月期には家計貯蓄額が急増し、可処分所得に占める貯蓄の割合を示す家計貯蓄率は21.9%という異例の高水準となった(図参照)。雇用者報酬(賃金)は減ったが、それ以上に家計消費が減って貯蓄が増えているところに、さらに10万円給付が上乗せされた。マクロ的には、10万円給付はそっくり貯蓄に回った。

その後、10万円給付の効果が消えた後も高レベルの貯蓄が続いている。21年4~6月期の段階でも、家計貯蓄率は7.8%という高水準だ(コロナ前の家計貯蓄率は1~2%)。家計全体でみれば金余り状態が続く状況で、さらに給付金を支給しても消費拡大にはつながらない。今後、何らかの給付金を具体化する場合には、その目的と効果を厳しく吟味する必要がある。

引用元:日本経済新聞電子版経済教室

 

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家計貯蓄率と貯蓄額 出典元:日本経済新聞電子版経済教室

 

日本経済の実態と成長戦略

小峰隆夫大正大学教授は、次のように分析されていますのでご紹介いたします。

経済学的なロジックとデータに裏付けられた政策運営を心がけることだ。

最近10年間(11~20年)の名目国内総生産(GDP)の伸びは平均0.7%、同じく雇用者報酬の伸びは1.2%にすぎない。先進国の中で断トツに低い伸びだ。

経済成長と分配の関係に関するロジックについても点検しておこう。経済が成長して初めて分配の原資が生み出されるのだから、「成長なくして分配なし」という考えは正しい。

ならば経済の成長環境を整えて、持続的に全体の所得水準を底上げしていくこと(いわゆる成長戦略)こそが、特効薬だということになる。

成長すれば社会保障制度の持続可能性は高まり、雇用は安定し、財政も楽になる。何よりも所得が増えて国民が幸せになる。「成長なくして何もなし」というのが正しいのではないかと思う。

ただし政策の力で基調的な成長力を高めることは、言うべくして難しい。多くの内閣が成長戦略に取り組んできたが、基調的な成長率は他の先進諸国に見劣りする状態が続いている。単純に財政支出を増やしたり金融を緩和したりすれば達成できるわけではない。

成長は基本的に民間の企業や人材により実現するものだから、政府にできるのは民間の活力を高めていくような環境を整備することだけだ。それには産業・企業の新陳代謝を促進し、働き方を変えて生産性が高まりやすくなるような規制改革が不可欠となる。

引用元:日本経済新聞電子版経済教室

 

成長のために本当にやるべきこと

デービッド・アトキンソン 小西美術工芸社社長が、日本の問題点について的確に把握して、中小企業の強化策を次のように述べています。

新政権が示唆する大企業の努力と下請け救済では、大した生産性の改善はない。大企業も頑張らないといけないが、社会保障負担に対応できるほどの生産性向上は不可能だ。上場企業で働く労働者の割合は約2割で、企業数なら0.3%である。いじめの対象になる下請けは、中小企業白書によれば、中小企業の1割にも満たない。

生産性を大きく向上させるには、日本企業の99.7%を占め、7割以上の労働者を雇用している中小企業を全体として底上げするしかない。

また賃上げする企業を税制面で優遇するというが、それは性善説である。7割近くの企業は法人税を納めておらず、税率優遇程度で賃上げする企業は少ないと思う。「生産性を上げてから賃上げをする」という向きもあるが、そもそも賃上げを考えていない企業はどうするのか。結局、最低賃金が肝心なのだ。

日本経済衰退の本質は、高齢化社会の負担にどう対応するかである。まず持続性が強い「成長」を担保する中小企業の強化策がなければ、この新たな政策も画餅に終わると言わざるを得ない。

引用元:日本経済新聞電子版

 

まとめ

・政府は11月9日、新しい資本主義実現会議の方針を踏まえて具体的な政策立案をする4つの組織の設置を発表しました

・しかし、各会議の役割分担は既存の会議と重複するものもあり、はっきりしません。先ずは重複する部分を統合・整理することが必要と思います。

・前回の10万円の給付金は支給しても消費拡大にはつながりませんでした。今後、何らかの給付金を具体化する場合には、その目的と効果を厳しく吟味する必要があります。

・経済の成長環境を整えて、持続的に全体の所得水準を底上げしていくためには、実現可能な成長戦略こそが、取るべき政策です。

・しかし、多くの内閣が成長戦略に取り組んできましたが、基調的な成長率は他の先進諸国に見劣りする状態が続いています。単純に財政支出を増やしたり金融を緩和したりすれば達成できるわけではありません。

・政府にできるのは民間の活力を高めていくような環境を整備することです。それには産業・企業の新陳代謝を促進し、働き方を変えて生産性が高まりやすくなるような規制改革が不可欠となります。

・生産性を大きく向上させるには、日本企業の99.7%を占め、7割以上の労働者を雇用している中小企業を全体として底上げするしかありません。

・また賃上げする企業を税制面で優遇するというが、7割近くの企業は法人税を納めておらず、税率優遇程度で賃上げする企業は少ないと思います。

・まず持続性が強い「成長」を担保する中小企業の強化策が必要であると考えます。

・岸田政権の新たな経済対策は、これまでの内閣の政策と同じような失敗に終わらないよう、効果が期待できるものにしていただきたい。