自民党9月29日の総裁選にて岸田文雄氏を第27代総裁に選出しました。新総裁は10月4日に国会の首相指名選挙を経て、新内閣を発足します。
1日の臨時総務会で党運営の要となる党四役などを決定し、新たな党執行部が始動しました。11月前半には衆議院選挙の投開票が予定されます。政権運営の第一歩となる党役員・閣僚人事の動きなどから見えてきたものを分析し、提言いたします。
目次
派閥間のバランス人事の継承
安倍晋三前総理や麻生太郎副総理と共に「3A」と呼ばれる甘利明氏の幹事長選任に象徴されるように、自民党の改革よりも結束を重視したと考えられます。
国民が期待する危機意識に対する自民党の変化、若返りは期待外れに終わりそうです。旧来の安倍、麻生両氏の支持を党運営の基盤にした体制が継続すると言えます。
岸田文雄新総裁の課題
新政権の課題として、まずは新型コロナウイルス対策が最優先となります。
いくら経済活動を活性化させようとしても、コロナ感染により医療現場がひっ迫してしまっては、行動制限を余儀なくされ、経済の正常化どころではないからです。
岸田文雄新総裁にとって、新型コロナウイルスの感染を抑えながら経済活動の正常化を図り、持続的な成長につなげていくことが大きな課題です。
岸田氏は数十兆円規模の経済対策を提言していますが、行動制限の緩和に伴い、飲食やレジャーの自律的な回復も期待できます。
従って、医療逼迫の解消やワクチンの確保、経済弱者の救済などの不可欠な対策予算の計上に絞り込むべきと思います。
アベノミクス経済政策の修正
安倍晋三政権から菅義偉政権に継承された経済政策(アベノミクス)に関しては、金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢を堅持しつつ、これまでより所得の再分配を重視すると述べています。
「成長と分配の好循環」、経済のパイを拡大しながら、配分を適正化するとの考えを唱えています。それが実現できれば理想です。
問題は岸田氏がいかにして具体策を提示・実行できるかに掛かっています。
令和版所得倍増構想
かつて60年前、1960年に池田内閣の下で策定された長期経済計画が、所得倍増計画です。 この計画では、翌1961年からの10年間に実質国民総生産を26兆円にまで倍増させることを目標に掲げ、その後日本経済は計画以上の成長に至りました。 立案者は経済学者の下村治氏。
自民党総裁選で岸田文雄氏は「成長と分配の好循環」を経済政策の柱に掲げました。子育て世帯や非正規雇用者の支援を強調し、数十兆円規模の経済対策も打ち出しました。
一方で脱デフレを目指すアベノミクスや原子力発電の再稼働など、従来路線を踏襲しています。分配を重視するあまり、財政出動に過度に頼らないよう、新たな成長戦略を示す手腕が問われます。
岸田氏が強く訴えたのは所得再配分による格差の是正です。子育て世帯の所得の伸び悩みが出生率低下につながっているとして住居費や教育費の支援強化を実施。新型コロナウイルス禍での困窮者への現金給付の対象は子育て世帯のほか、非正規雇用者、女性、学生を例示しました。分配により、格差の是正や分厚い中間層を再構築する「令和版所得倍増」と銘打ちました。
成長戦略は、科学技術立国、経済安全保障、デジタル田園都市国家構想、人生100年時代の不安解消──の4本柱。10兆円規模の大学ファンド設立、経済安全保障推進法の策定と専任大臣の設置、地方におけるデジタル・インフラの整備などが提示されています。
停滞する日本社会
指摘したいのは、日本経済が1990年代のバブル崩壊以降30年もの間、停滞し世界から取り残されているという現実です。
新型コロナで日本の統率力の脆弱さがはっきりしました。
菅首相が非効率な医療体制の改善を指示しても迅速に動けない官庁の縦割り体質と官僚の劣化、国と地方の責任の押し付け合い、デジタル化の遅れなどにより医療現場の混乱は今も続いています。
統治不全は外交、安全保障、経済財政、通商のあらゆる政策面に見られます。
菅首相がコロナ対応がなかなか進まず、国民の支持率低下に嫌気がさしてギブアップしてしまったのは誠に情けないことです。
もっとも懸念されることは、国民の多くがこういうものだと現状を受け入れ、諦めてしまうことです。
社会システムの見直しを
今こそ日本の社会システム全体を根本的にもう一度見直さなければならないでしょう。日本の社会はなぜこんなにやろうとしない、動かない、しょうがないとあきらめてしまう体質に変わってしまったのでしょうか?
国民の多くがこういうものだと現状を受け入れ、諦めてしまうことは大変危険なことです。
日本社会の長期停滞の要因は根深く、教育などから抜本的に変えていかなければならないでしょう。
ただ、挽回のチャンスはいくらでもあると思います。
社会システムを見直すために、かつての臨調(臨時行政調査会)のような強力な組織を復活させようという考えがあります。
記憶に鮮明に残っているのが、81~83年に土光敏夫元経団連会長が会長を務めた「土光臨調」です。国鉄など3公社の民営化などはもともと臨調が提言したものでした。政治、行政、それに企業も一体となって社会システムを総点検するという点では、効果が期待できる取り組みだと思います。
国民の皆さんには、このままではいけない、何とかより豊かで幸せな公平感の感じられる社会に作り変えねばならないと考えて頂きたいと思います。
政・官・財一体となって新しい組織をつくり、改革を行おうといった行動を国民総意で起こしましょう。
このタイミングで何の手も打たなければ、日本社会はこのまま「失われた40年」に突入するだろうと大いに懸念いたします。