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真鍋淑郎氏、ノーベル物理学賞受賞

スウェーデン王立科学アカデミーは10月5日、2021年のノーベル物理学賞を日本出身で米国籍の、真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員(90歳)らに授与すると発表しました。

真鍋 淑郎

真鍋 淑郎氏 出典:Wikipedia

ノーベル賞の選考委員会は真鍋氏が「大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇が地表の温度上昇につながることを実証した」と評価しました。

温暖化の原因を科学的に示した真鍋氏らの研究は、人類が直面する最も差し迫った課題である脱炭素をめぐる議論のきっかけとなりました。

 

目次

真鍋氏の功績

真鍋氏は1958年に東京大学で博士号を取得し、米気象局(現・海洋大気局)の招きを受けて渡米。普及し始めたコンピューターを使って気象を予測する研究に取り組みました。

真鍋氏は地球の気候をコンピューター上で再現する「気候モデル」を開発し、大気中のCO2の量が2倍になると地上の気温が2.3度上がると試算し、67年に発表。

CO2が長期的な気候変動に重要な役割を果たしていることを示し、世界中で温暖化研究が進むきっかけとなりました。

 

真鍋氏の業績は、日本を含む各国のエネルギー・環境政策に大きな影響を与えています。真鍋氏は、現在の温暖化や異常気象が人為的であることを予測するモデルを作りました。

そのモデルを発展させたのが、各国の政策策定の重要な参考指針となっている国連の気候変動に関する「政府間パネル(IPCC)の報告書」です。

真鍋氏は頻発する「気候危機」に対して強い懸念を示しています。このままCO2の排出を続ければ、後戻りできない臨界点に向かう恐れがあると指摘します。

 

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気候モデルを使いコンピューターで計算 出典:日本経済新聞

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)開催

温暖化対策を話し合う第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が、10月31日から英国グラスゴーで開かれます。その行方が大変注目されます。

国連の気候変動枠組み条約に加盟する197カ国・地域が参加します。条約は1994年に発効し、今回が26回目です。英国が議長国を務め、10月31日から11月12日までグラスゴーで開きます。

2015年のCOP21で温暖化対策の新しい国際枠組み「パリ協定」が採択され、16年に発効しました。パリ協定は、工業化前に比べた世界平均気温の上昇幅が、1.5度以下となるよう努力するという目標を掲げました。

21世紀後半に温暖化ガス排出を実質ゼロにする必要があります。

 

IPCCが今年8月に公表した第6次報告書は、工業化による気候変動を科学的に「疑う余地はない」と断言。さらに20年以内に1.5度の気温上昇が発生すると予測しています。

パリ協定締結国は30年ごろの温暖化ガス削減目標を条約事務局に提出します。7月30日時点の目標を合計しても、30年の世界の温暖化ガス排出量は10年比で16%増えます。

21世紀末までの気温上昇は2.7度となり、1.5度を大きく上回ると推定されます。

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温暖化ガス排出削減 出典:日本経済新聞

こうした予測は、ノーベル物理学賞を受賞する「真鍋淑郎博士らの計算モデル」を使っています。世界最大の排出国である中国をはじめ、日本を含む各国がどこまで目標を引き上げるかが注目点です。

09年のCOP15で、先進国は20年までに年1千億ドル(約11兆1千億円)の途上国支援をめざすことで合意しましたが、いまも目標額は達成されていません。

約束が守られなければ、温暖化対策を加速できないというのが途上国の本音です。

バイデン米大統領は国連総会で支援額の倍増を表明しました。日本も増額を求められています。

先進国がどれだけ支援額を増やせるかは、COP26の成否を左右する大きな要素です。

「頭脳流出」真鍋氏の警鐘

ノーベル賞を受賞する真鍋氏は気候モデル研究の先駆者として、京都議定書が採択された1997年、科学技術庁(現・文部科学省)の傘下機関で温暖化予測研究の責任者に就任、当時最先端のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」のプロジェクトなどに携わりました。

しかし、その任務は長くは続かず、2001年自由に研究が続けられる環境を求めて米国に戻りました。

「温暖化研究エース再び米国へ」

2001年、真鍋氏が米国に戻ることを報じた日本経済新聞の記事には、次のように記されています。

「所管が違う様々な研究機関との間の忍耐がいる調整業務、研究スタッフの不足、本音を率直に話さない日本独特の習慣――。米国では考えられなかった本来の研究以外の苦労が重くのしかかっていたことが言葉の端々からうかがえた」

文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、世界で2017~19年に発表された自然科学分野の学術論文のうち、他の論文に引用された回数が上位10%に入る有力論文数の国別ランキングで、日本は過去最低の10位に後退。中国が初めて米国を抜いて首位に立ちました。

日本の低迷の理由は、外国と比べ科学技術予算の伸びが鈍いことです。

日本の科学技術予算は01~20年の20年間で26.2%増えましたが、同じ期間に米国は44.6%増、中国は約6.8倍(19年まで)と急増し、それぞれ日本との差を広げています。

日本は15年にドイツに抜かれ主要国で4位。近年は韓国からも追い上げられています。

真鍋氏の再度の「頭脳流出」という約20年前の状況は、その後も一向に改善されていません。日本の研究環境は欧米と比べて劣後した状態にあります。

激しい研究開発競争が繰り広げられる今日、日本の研究環境を整え優秀な人材を引き留める、政策の確立・遂行が急務であると考えます。