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負のスパイラルからの脱出

これまでデフレで悩んできた日本に、最近のガソリン価格の値上がり等輸入品価格の上昇、貿易収支の悪化と環境が変化し、インフレの兆候が始まったと考えます。

長期低迷から脱出できない日本経済への影響を検討してみました。

 

目次

 

鹿児島県志布志 国家石油備蓄基地

鹿児島県志布志 国家石油備蓄基地 出典元:日本経済新聞電子版

 

原油価格

原油価格は1バレル70ドルを超える水準と、7年ぶりの高値が続いています。

ガソリン高への批判に直面するバイデン米大統領は、産油国に増産を働きかけていましたが、11月4日OPECプラス(ロシアなど)の閣僚級会合はこれを受け入れませんでした。

米国は23日に高止まりが続く原油価格の抑制を狙って、今後数カ月かけて戦略備蓄5000万バレルを放出すると発表しました。

日本政府も国家備蓄や民間備蓄などあわせて240日分ほどある備蓄のうち、国家備蓄の余剰分420万バレル(2日分程度の需要)を放出します。

岸田文雄首相は「原油価格の安定は経済回復を実現するうえで重要な課題だ。米国と歩調をあわせ現行法に反しない形で国家備蓄の一部売却を決定した」と語りました。

異例の行動である。国際エネルギー機関(IEA)主導で進めてきた原油の備蓄は、動乱や自然災害による供給途絶への備えを目的としてきた。

IEA主導による過去の放出はイラクが隣国クウェートに侵攻した際の湾岸戦争や、米国のハリケーン被害などに限られ、原油高対策で放出したことはない。

バイデン大統領は演説で「史上最大の放出だ。ガソリン価格は下がるだろう」と語った。車社会の米国でガソリン価格の高騰は家計を圧迫する。国民に原油高への対応を示す必要があるのだろう。

そうだとしても米主導の放出には問題があると言わざるを得ない。放出を織り込み済みの原油市場では大統領の発表後、価格はむしろ上昇した。

備蓄を市場介入の手段に使うべきでない。抑制の効果は一時的にすぎない。産油国が増産を控えれば放出の効果は帳消しとなる。増産すれば供給過剰を招き、価格の急落を招きかねない。

必要なのは需給逼迫を招いた構造的な問題への対処だ。足元の原油高は新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う需要の拡大と、脱炭素の潮流を背景に減少する油田開発投資の問題がある。

石油需要が減少に転じてもいきなりゼロになるわけでなく、長い時間をかけてゆっくりと減る。消費国はこの間、電気自動車(EV)への転換など脱炭素の取り組みを急ぎつつ、産油国と連携し、石油の供給体制を維持する努力が欠かせない。

引用元:日本経済新聞電子版

 

石油市場の安定には一時しのぎの策でなく、産油国と連携し適切な需給を探ることが重要だと思います。

 

日本の構造問題

世界がインフレのリスクに身構えるなか、物価上昇の波とは無縁にみえる日本。だが資源高や円安は輸入物価に着実に跳ね返っている。企業物価と消費者物価、2つの物価の乖離(かいり)は日本経済の体力を奪いつつある。

食卓や外食産業を「ミートショック」が襲っている。新型コロナウイルス禍で産地の人手が不足したところに干ばつが重なり供給が滞った。米国産牛バラ肉の卸売価格は前年の約2倍に高騰した。

牛丼チェーン大手の「松屋」や「吉野家」が主力の並盛りを値上げした一方、国内の値上げを見送るのが「すき家」のゼンショーホールディングス。「消費者にダメージを与える値上げは極力抑えたい」(同社)。松屋や吉野家の値上げ幅も数十円程度で卸売価格の上昇に及ばない。その分、企業の利益を圧迫する要因になる。

まるでワニの口のように企業物価と消費者物価の上昇率の差が開き、離れていく。これこそが日本経済が直面する苦悩だ。

企業物価は記録的な上昇局面にある。企業物価指数は10月に前年同月比8.0%と40年ぶりの上昇率になった。エネルギーや金属・木材などが押し上げる。

ところが、消費者物価の上昇率は0%台に張り付く。川下の最終製品やサービスまで値上げが広がらない。企業物価を追いかけるように消費者物価が30年ぶりの6%台になった米国とは全く異なる風景が広がっている。

世界経済を揺さぶったコロナ禍だが、各国経済の実力はむしろ正常化へ動き出すいまの方が差が際立つ。米国では7~9月の個人消費はコロナ禍前の19年7~9月と比べて10%増えた。逆に日本の4~6月期は2年前より5%少ない。

そこにあるのは賃金が上がらない日本が抱える構造問題だ。経済協力開発機構(OECD)によると、過去30年で米国の名目賃金が2.6倍になったのに対し、日本はわずか4%増にとどまる。

家計所得をつぶさにみれば、さらに実情が浮かぶ。世帯人数2人以上の勤労者世帯の可処分所得は20年間で5%(月額2万4000円強)しか増えていない。同じ期間に社会保険料は35%(月額約1万7000円)増えた。膨らみ続ける社会保障費が家計を圧迫している。

賃金が上がらないために需要が弱い。企業は原料高を転嫁したくてもできない。利益が伸びず、賃金も上げられない。この循環から抜けられない。

消費が回復をみせる米国は金融緩和の縮小に動き、利上げする国も出てきた。緩和の出口が遠い日本にとって円安圧力が強まる。

輸入物価指数はすでに前年比で4割高い。ここからの円安は、日本をいっそう貧しくすることになりかねない。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは1バレル80ドル台の原油価格や前年比で5%程度の円安が続くと、家計負担は年2万9000~3万5000円増えると指摘する。

岸田文雄政権が掲げる経済政策はばらまきの要素が目立ち、構造問題に切り込む姿勢は乏しい。企業が生産性を高めて賃金を引き上げ、消費が拡大する好循環に反転できるか。世界に押し寄せる物価高の波は、日本が解決すべき難題を突きつけている。

引用元:日本経済新聞電子版

 

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企業物価指数と消費者物価指数 出典元: 日本経済新聞電子版

 

負のスパイラルからの脱出

日本経済が長期低迷から脱却できない問題は、次に述べるように整理されます。

そして輸入インフレへの適切な対応を行うことで、日本経済復活への糸口が見えてくると考えます。


・人口減少・少子高齢化
社会保障(年金・医療・介護)の将来不安→消費を増やさず貯蓄を増加
社会保険料の増加→消費を増やせない
教育費負担の増加不安→消費を増やさず貯蓄を増加
賃金が上がらない→購買需要が弱い→企業は販売価格をあげられない→原料高を転嫁できない→利益を伸ばせない→設備投資が出来ない

・民間貯蓄を吸収して、財政支出を拡大する政策国・地方債務の増加、民間経済の成長は期待できない

・ゼロ成長であっても、このような政策が維持できたのは、国際収支が安定していたからです。貿易サービス収支の赤字が定着してくると、財政赤字の拡大は、この赤字を一段と拡大させ、円安が加速し、輸入インフレが始まります。

・経常収支黒字の実体は、所得収支の黒字です。これは対外投資からくる果実です。国内経済が悪化してくれば、それを日本に送金するよりも海外に再投資する割合が一段と増えてくるでしょう。

・原材料価格の上昇を、利益を削って、人件費を抑えてでも販売価格への転嫁を抑えようという企業努力はいずれ限界を迎えます。

・異次元の金融緩和でも上がらなかった物価は、環境が変われば上がりだします。企業が欧米流の価格転嫁に少しカジを切るだけで、物価上昇圧力はかなり高まりそうです。

・コストプッシュで上がりだした物価を金融引き締めで抑えることは難しいです。ひとたび上がりだした物価が、国や日銀が目標としている2%で止まると考えるのは楽観的過ぎます。

金利を復活させて円安傾向を是正し、輸入インフレを抑えると共に、財政規律を取り戻すことも必要となります。

ゼロ金利からの脱却によってはじめて市場経済が動き出し、産業間・企業間の新陳代謝が行なわれるようになり、生産性が上昇してくると期待されます。

・企業が生産性を高めて賃金を引き上げ、消費が拡大する好循環に好転させるでしょう。

・かくして、ゼロ金利と量的緩和で財政規律を失った日本経済は、負のスパイラルから脱却していくと考えます。